近年、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やマッチングアプリを悪用した投資詐欺の被害が爆発的に増加しています。これらの詐欺は、従来の投資詐欺とは異なり、「金儲けの話」の前に「信頼関係の構築」という感情的なプロセスが介在するため、被害者が詐欺だと気づきにくいのが特徴です。特に国際的なロマンス詐欺と投資詐欺が結びついた手口は、「国際ロマンス投資詐欺」として大きな社会問題となっています。
この記事では、SNSやマッチングアプリを経由した詐欺の典型的な「騙しのプロセス」を詳細に解説し、被害に遭った際に最も重要となる「デジタル証拠の集め方と保全方法」について徹底的に掘り下げます。
SNS・マッチングアプリ詐欺の典型的な「騙しのプロセス」

SNSやマッチングアプリを利用した詐欺は、心理的な操作を伴うため、騙しのプロセスはいくつかの段階に分かれています。被害者はこれらの段階を経ることで、知らず知らずのうちに詐欺師の思う壺にはまっていきます。
ステップ1:ターゲットの選定と接触(アプローチ)
詐欺師は、主に以下のプラットフォームを利用してターゲットを選定します。
- プラットフォーム: Instagram(インスタ)、Facebook、X(旧Twitter)、Tinder、Pairs、Omiaiなどのマッチングアプリ。
- プロフィール偽装: 魅力的な写真(盗用されたものが多い)を使用し、職業を「海外在住のビジネスマン」「IT企業の投資家」「軍医」など、社会的地位が高く、裕福で信頼感がある設定にします。
- 接触の開始: 「間違えて友達申請した」「あなたの写真に惹かれた」「仕事の繋がりを探している」など、自然に見える口実でメッセージを送ります。
ステップ2:信頼関係の構築(グレーシング期間)
この期間は、金銭の話は一切出ません。詐欺師は被害者の心理に入り込み、信頼感と親密さを築くことに全力を注ぎます。この段階を「ロマンス詐欺」と呼ぶこともあります。
- 親密なコミュニケーション: 毎日頻繁にメッセージを送り、優しさや愛情を表現します。「愛している」「将来を共にしたい」といった言葉で、被害者を精神的に依存させます。
- 共感と共有: 趣味や悩み、過去の辛い経験などを共有し、強い絆が生まれたかのように錯覚させます。この時期に、チャットアプリ(LINE、WhatsAppなど)や通話に誘導されることが一般的です。
- 資産のアピール: 自分の裕福な生活や投資での成功体験を匂わせる話を織り交ぜ、投資の話題への布石を打ちます。
ステップ3:投資の勧誘と誘導(ターニングポイント)
信頼関係が十分に築かれたと判断したところで、詐欺師は本題である「投資」の勧誘を開始します。
- 口実の提供: 「知人から極秘情報を得た」「期間限定で絶対に儲かる投資がある」「二人で使う将来の資金を増やすため」など、被害者を巻き込むための説得力のある口実を用意します。
- 専用プラットフォームへの誘導: 勧誘で使用されるのは、FX、仮想通貨、バイナリーオプションなどに見せかけた偽の取引プラットフォーム(詐欺サイト)です。
- 少額からのスタート: 最初は少額を投資させ、すぐに「利益が出た」ように見せかけ、被害者に「本当に儲かる」という確信を植え付けます。
ステップ4:追送金の要求と資金の洗浄(回収)
被害者が利益に興奮し、さらに大きな利益を求め始めたところで、詐欺師は追送金を要求します。
- 要求の口実: 「大きな利益を出すには、さらに保証金が必要だ」「税金が発生したから、先にこの口座に振り込まなければ出金できない」「システム手数料が高騰した」など、様々な理由をつけて高額な資金を要求します。
- 送金手段: 資金は、追跡を困難にするために、海外の銀行口座や、特に仮想通貨(ビットコイン、イーサリアム)のウォレットアドレスに送金させられます。
- 出金拒否: 被害者が「出金したい」と申し出た時点で、詐欺師は姿を消すか、手数料の名目でさらなる追送金を要求し、最終的に連絡が途絶えます。
初動が鍵!デジタル証拠を収集・保全する方法

SNS詐欺において、被害回復の成否はいかに迅速かつ正確に「デジタル証拠」を確保できるかにかかっています。証拠を失うと、弁護士や調査会社が活動するための手がかりがなくなってしまいます。
証拠保全の原則:削除せずに「記録する」
「恥ずかしい」「見たくない」という理由で、詐欺師とのチャット履歴を削除することは絶対にやめてください。すべてのやり取りは、証拠として保全しなければなりません。
チャット履歴のスクリーンショット保全
最も重要な証拠です。以下の点に注意して記録してください。
- 全量を記録: 最初の接触から最後のメッセージまで、すべての履歴を途切れることなくスクリーンショットで記録します。
- 日時を含める: 画面上にメッセージの送信・受信日時、および相手のSNSアカウント名やIDが表示されている状態で撮影します。
- 動画録画の活用: メッセージの量が膨大な場合、チャット画面全体を上から下までスクロールしながら画面録画(動画)を行うと、一度にすべての履歴を保全できます。
- 専用アプリのログ出力: LINEやWhatsAppなど、アプリによってはチャット履歴をテキストファイルやPDFとしてエクスポートする機能があります。これも必ず行ってください。
詐欺サイト・専用アプリの証拠保全
誘導された偽の投資プラットフォームに関する情報も重要です。
- URLの記録: 詐欺サイトの正確なURL(ウェブアドレス)をメモし、ウェブページのスクリーンショットを撮ります。投資画面、アカウント画面、出金申請履歴など、すべてのページを記録します。
- アプリの保全: 専用の投資アプリをインストールさせられた場合、アプリの名称、アイコン、ダウンロード元のURLを記録します。アンインストールは絶対に避けてください。
送金履歴(トランザクションID)の保全
資金移動の記録は、資金追跡の生命線です。
- 銀行送金: 銀行の入出金明細書(PDFまたは印刷)を準備します。送金先の口座名義人、口座番号、金額、日時が必須です。
- 仮想通貨送金: 利用した取引所の履歴から、TxID(トランザクションID)、送金先ウォレットアドレス、送金日時、金額を正確に記録します。
端末(PC・スマホ)の保全措置
被害に使用した端末には、詐欺師の痕跡が残っている可能性があります。
- 初期化禁止: 端末を初期化したり、工場出荷時の設定に戻したりすると、デジタルフォレンジックに必要なアクセスログなどのデータが失われます。
- デジタルフォレンジック: 調査会社に依頼する際は、端末の電源を切り、そのままの状態で保全することが推奨されます。
調査会社がSNS詐欺で特定するデジタルな痕跡

SNS詐欺は、そのやり取りの特性上、従来の投資詐欺よりも詐欺師の個人情報に繋がるデジタルな痕跡が残っている可能性が高くなります。調査会社は、これらの痕跡を高度な技術で解析します。
IPアドレスと位置情報の特定
詐欺師が利用したIPアドレスは、その所在や利用環境を推定する重要な手がかりとなります。
- ログインログの解析: 詐欺師が偽の投資サイトや、連絡用に使ったメールアドレスにログインした際のIPアドレスのログを解析します。
- チャットデータのヘッダー解析: 一部の通信アプリ(特にEメール)では、送信元のIPアドレスが通信記録のヘッダー情報に含まれていることがあります。専門家はこれを解析します。
アカウントと属性情報のクラスタリング
詐欺師が使用した複数の偽アカウントや、異なるプラットフォームのアカウントを関連付ける分析を行います。
- プロフィールの画像検索: 詐欺師が使用しているプロフィール画像を画像検索し、盗用元や、他の詐欺案件で使用されていないかを調査します。
- 電話番号・メールアドレスの関連付け: 詐欺師がチャットアプリの認証に使用した電話番号やメールアドレスが、他の詐欺サイトのドメイン登録情報や、他の詐欺案件と紐づいていないかを追跡します。
閉鎖されたウェブサイトの復元(デジタルフォレンジック)
詐欺師が閉鎖した偽の投資サイトについても、デジタルフォレンジック技術を駆使して調査します。
- ウェブアーカイブの調査: インターネット上に残されたサイトのキャッシュデータ(アーカイブ)を収集し、サイトの初期情報や登録情報を解析します。
- サーバー登録情報の特定: 閉鎖されたドメインの登録情報やネームサーバー情報を解析し、サイト運営者の手がかりを探します。
証拠が法的な力に変わるまで:調査会社と弁護士の連携

SNS詐欺の被害回復も、最終的には「弁護士による法的な請求」が必要です。調査会社が集めたデジタル証拠は、弁護士が法的手続きを行うための強力な根拠となります。
調査報告書の活用
調査会社は、収集したすべてのデジタル証拠を、法的に有効な形式で「調査報告書」にまとめます。この報告書には、チャット履歴の真実性、資金の移動経路、詐欺師のIPアドレス推定地などが明記されます。
弁護士による情報開示請求
弁護士は、この調査報告書を基に以下の法的な請求を行います。
- プロバイダ責任制限法に基づく情報開示請求: 詐欺師が利用したIPアドレスから、インターネットサービスプロバイダ(ISP)に対し、そのIPアドレスを使用していた契約者情報(氏名、住所)の開示を請求します。
- 仮想通貨取引所への情報開示請求: 資金が流れ着いた取引所に対し、詐欺師の口座情報(KYC情報)の開示を請求します。
これらの開示請求が認められれば、詐欺師の身元を特定でき、その後の訴訟や資産差し押さえといった返金請求手続きを本格的に開始できます。
まとめ:被害に気づいたら「即刻相談」が最善の防御

SNSやマッチングアプリ経由の詐欺は、感情的なショックが大きいため、被害を公にすることを躊躇しがちです。しかし、隠蔽や自力解決の試みこそが、証拠を失い、被害回復の道を閉ざす最も危険な行為です。
被害に気づいた時点で、「騙しのプロセス」を正確に理解し、冷静に証拠を保全すること。そして、その証拠をもって、SNS詐欺やデジタルフォレンジックに強い専門の調査会社と弁護士に即座に相談することが、返金に向けた最善の防御となります。
証拠が新鮮なうちに動くこと。それが、詐欺師のデジタル上の足跡を追跡し、被害回復を実現するための唯一の道です。
